嵐の日。
異国への祈りを掌に乗せて踏み出せば、
言霊たちが回路を開く。
だらしなく発光し続ける城の地下、
お互いの吐瀉物を吸い込みあう幽霊たちがひしめく虚ろな迷路を抜けて、
お前の足元にいる影の速度を超えろ。
臍を振る女は豊満で誇らしげで悲しげだ。
彼女を見ていると、自分の体に金色の肌が欲しくなるのはなぜだろうか。
杯が白く染まれば眼球からすずらんの花が咲き、
やがてリンゴの香りの煙が全てを雨雲に練り上げ、どこか遠くへ持ち去ってしまう。
嵐と共に消え去ってしまう。
嵐の日には外へ出よ。
太陽の下で虐げられた花たちが背筋を伸ばしている。
その花と話すがいい。
その花びらが祈りとなり、その会話から言霊が産まれる。
雨が好きだ
雨を眺めるのが好きだ
見慣れた景色を塗り替えてくれる
いつものノイズをちょっとだけ遠ざけてくれる
空気の香りを少し柔らかく調節してくれる
世界はゆっくりとほどけて
冷たく混ざり合っていく
その渦の中でまどろむと
今まで知らなかった心のひび割れに
雨が流れ込む
それが嬉しい
だけど決壊する前に雨がやんでしまうから
いつも世界は眠りの中に置き去り
月が好きだ。
ちょっと近所のコンビニに行こうと外に出ると、
さっきまでの雷雨が嘘みたいに穏やかな空気がひんやりと立ち込める。
嵐が去って、雨雲がすっかり消えた夜。
見上げると、月が高く、静かに光っていた。
夜空に広がる冬の星座の隙間を、悠然と渡る月。
僕はそういう人間でありたい。
冷たい闇を優しい光で導く月のような。
咲き誇る花を柔らかに彩る月のような。
灼け付いた肌を涼しげに包む月のような。
眠れぬ夜をそっと受け止める月のような。
そういう男に、なりたい。