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ある本屋の最期

先日、近所の本屋が店を畳むにあたって在庫処分セールを行う、
という話を聞きつけたので、行ってきた。
その店では本だけでなく、文具類も多く置いているので、
ファイルの類をまとめて買い置きしておこうと思ったのだ。

それに、図書館リサイクルフェアで入手できなかった辞書や事典の類も、
ひょっとしたら安く手に入るのではないか、という下心もあった。
まあ、あまり期待していくとまた落胆することになるので、
入れ込み過ぎないように自制しながらではあるが。

小雨の中、小さな水溜りを避けながら店まで歩く。
その店が入っている建物は、一階が本屋で、二階が学習塾。
三階はフラワー・アレンジメントか何かのスタジオになっている。
隣には薬局があり、裏手には公園がある。
建物はバス通りに面していて、バス停も近い。
人の流れのないところではない。
何故この店が閉店することになったのか。

軒先には既に20人ほどの列が出来ていた。
建物の脇にある階段で風が巻き返して吹き付けてくる。
傘を畳んで列の最後尾に加わり、寒さに我が身を抱く。
開店にはまだ十分ほどある。
することも無いので居並ぶ客の姿をぼんやりと眺めていた。
小中学生や、主婦、老人が多く、僕と同じ年恰好の者はいなかった。
とりわけ多いのは子供たちのグループ。
二階の塾の生徒だろうか。

程なく後から来た主婦が連れてきた子供たちと共に僕の後ろに並んだ。
「寒い」「まだ開かないのか」「早く開けてくれ」としきりに愚痴を言う。
呼吸するリズムに乗せて小さな呪いを次々と吐き出している。

この人は何故、雨の中、休日に、この店の閉店セールに並ぼうと思ったのか。
この日、この時間にしか行われないセールの情報をどこからか入手して、
何か安く手に入ることを期待して自ら行動を起こしたわけではないのだろうか。
しかし、それなら文句の出しようもないはずだ。

ということは、子供にせがまれて仕方なく保護者として同行したのだろうか。
だとするならば、本屋の閉店セールで何かを手に入れようという我が子の申し出が、
そんなに疎ましいのだろうか。
その心理には本屋が潰れる原因を探るための手掛かりがあるような気がする。

店内に灯かりがつき、扉が開いた。
子供たちが小さな体を素早く躍らせて目的の棚へ跳ねて行く。
本棚には本は並んでおらず、店内に残っているのは文具類のみだった。
主だった在庫は系列店に引き上げたのかもしれない。
子供たちは空の本棚には見向きもせず、ペン類やレターセットの前に群がっていた。

またしても本命は入手できなかったが、今回は別の目的が明確にある。
ファイルやクリアケースなど、文具類で、それなりの収穫を得ることができた。
図書館に続き、決して手ぶらでは帰らないあたり、自分の意地汚さを再確認する。

めぼしい物はあらかた手にして、レジに並んでいる間、気になるやり取りを目にした。
僕の三人ほど前に並んでいる男性の老人が、店員に何か質問している。
どうやらポイントカードのポイントが使用できるかどうか訊ねているようだ。
よほど多額のポイントを貯めていたのだろうか。
壁一面に並ぶ空っぽの本棚を見てもなお、相手の窮状に思い至らなくなるほど。


とても意義のある買い物をしたと思う。
人前で愚痴る母親。本が無くても失望しない子供たち。貧者に鞭打つ老人。
彼らに囲まれて、学習塾の下にある本屋は死んだ。
皮肉なほどに象徴的な光景だった。

外に出ると、雨は上がっていた。
ため息はつくまい。
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